クセが痛みを生む理由と、運動で改善できるワケ

こんにちは。
愛知県豊明市にある、HK LABOの服部 耕平です。
現在までに整形外科専門病院、デイサービス、トレーナー活動で様々な痛みでお困りの方の施術をさせて頂きました。
姿勢や歩き方などの動作から一人一人の方の痛みに合わせた治療をおこなっております。
Contents
はじめに
前回のブログで動きを脳が覚えると無意識でも動きが修正されるという話をしました。
その無意識とはどうゆう事なのか、今回はそれを紐解いていきます。
なので、いつもと違い動きを細かく説明するのではなく、なぜ痛みの改善に運動をするのか。
これは理由を言い出せばキリがないですが、その中の一つを解説します。
私たちの体は、無意識のうちにさまざまな「クセ」がついています。
立ち方、歩き方、しゃがみ方、腕の振り方など、何気ない動きにも自分なりのパターンつまりクセが染みついています。
そのクセがうまく働いているうちは問題になりません。
しかし、繰り返し同じ方向に体をねじる、片側ばかりに荷重をかけるといった動きが積み重なると、
やがて筋肉や関節に偏った負担がかかり、痛みや不調の原因になっていきます。
では、なぜ私たちは間違った動作パターンを無意識に繰り返してしまうのか。
そして、それをどうすれば修正できるのでしょうか?
そのカギを握るのが「小脳」と呼ばれる脳の領域に存在する「内部モデル」です。
このブログでは、小脳の内部モデルがどのように運動を学習・記憶しているのか、
そしてその誤ったパターン(=クセ)をどう修正することで、痛みの軽減や予防につなげられるのかを、
わかりやすく解説していきます。
小脳とは?~運動の司令塔~
私たちの脳は、大きく「大脳」「小脳」「脳幹」などに分けられます。
その中も小脳(しょうのう)は、名前の通りサイズは小さく見えますが、
運動の正確さやスムーズさを支える非常に重要な役割を担っています。
小脳の主な役割
小脳には、このような働きがあります。
● 動きの微調整(ブレや揺れを減らす)
● 運動のタイミングやリズムの調整
● 姿勢やバランスの制御
● 運動学習と記憶
● 次に起こる感覚の予測
この中でも特に注目したいのが、「運動の学習」と「予測」の能力です。
私たちは新しい運動(例えば自転車の乗り方やフォームの矯正)を習得するとき、
小脳が中心となって「正しい動き方」を学び、それを無意識のうちに繰り返せるようにしてくれています。
大脳と小脳の違い
同じ脳でも大脳と小脳では役割に違いがあります。
● 大脳運動野は「どんな動きをするか」の命令を出すところ。
● 小脳は「その動きをどう滑らかに・正確に実行するか」を管理する調整役です。
たとえば、大脳が「ボールを投げろ」と命令すると、
小脳はその命令をもとに「肩やひじをどれくらいの速さで動かすか」「体のバランスをどう保つか」
などを細かく調整してくれます。
大脳がざっくりとした指示を出し、小脳がその通りにうまく動くように微調整してくれる。
そんな役割があります。
内部モデルとは
ここ大切な内部モデルのお話をしていきます。
小脳が動きをコントロールするために使っているのが 「内部モデル(internal model)」と呼ばれる仕組みです。
● 順モデル(Forward Model)→「この動きをすれば、次はこういう感覚が返ってくるはず」と予測する機能
● 逆モデル(Inverse Model)→「この感覚や目的に到達するには、こんな筋肉を動かすべき」と指令を逆算する機能
この2つが合わさって、私たちは無意識に正確でスムーズな動きを生み出しています。
しかし、一度「間違った動き」が内部モデルに学習されてしまうと、
それが当たり前の動作として記憶され、日常的に繰り返されるようになります。
それが「クセ」につながり、結果として体に負担をかけ続けることになるのです。
年齢を重ねるにつれて、私たちは無意識のうちに「楽な姿勢」や「楽な歩き方」を選ぶようになります。
こうした動きは一時的には疲れにくく感じるかもしれませんが、
繰り返すことで小脳はその動きをインプットして、内部モデルとして記憶します。
すると、使われない筋肉や関節はさらに動かなくなり、逆に偏った負担がかかる部位では痛みや不調が起こりやすくなります。
つまり、間違った動作を繰り返すほど、「悪い内部モデル」が増えてしまい、
関節や筋肉の負担が増えて、痛みが出やすくなってしまうのです。
内部モデルが運動をどう制御しているのか
小脳の「内部モデル」は、ただ動きを記憶するだけでなく、
未来の動きを予測し、事前に調整するというとても高度な働きをしています。
この予測機能によって、私たちは意識せずともスムーズに体を動かせているのです。
たとえば
● ドアノブを回すとき、無意識にちょうどいい力加減で手を動かせる
● 階段を下りるとき、段差を見ただけで足の動きを先に調整できる
これらはすべて、「こう動いたら、こういう感覚が返ってくるはず」という予測(順モデル)と、
「目的の動きのためには、この筋肉をどう動かすか」という逆算(逆モデル)によって成り立っています。
正しい予測が上手な動きを作る
内部モデルがうまく機能していると、私たちは「フィードバック」に頼らずに動けます。
● フィードフォワード制御(予測制御)⇒小脳が「こう動けば大丈夫」とあらかじめ調整して動く
● フィードバック制御(反応制御)⇒動いた後に「ズレていた」と気づいて修正する
スポーツ選手が素早く正確に動けるのは、予測に基づいたフィードフォワード制御が発達しているからです。
反対に、内部モデルが誤っていれば、「毎回どこかズレている」という感覚が残り、体は無理に補正しようとして負担が増えます。
繰り返しのクセが間違った予測を生む
先ほども触れた通り、動作は繰り返せば小脳に学習されて“当たり前”になります。
しかし、それが悪いフォームだとしてもそれを繰り返し反復してしまうと、
小脳ではこの動きが「正しい」としてインプットし再現されてしまうのです。
例えば
◎ 膝が内側(外側)に入る歩き方
◎ 片側ばかりに体重をかける立ち方
◎ 腰を反りすぎる立ち姿勢
など
これらは最初はラクに感じるかもしれません。
しかし、内部モデルがその動きを「正しい」と覚えてしまえば、どんな運動や動作の中でもそのクセが顔を出すようになります。
結果として、特定の筋肉や関節に負担が集中し、痛みや不調の引き金になっていくのです。
間違った運動パターン(クセ)はこうして定着する
私たちの身体の動きには、ほとんど無意識で行っているパターンがあります。
歩き方、立ち方、しゃがみ方、荷物の持ち上げ方など、日常の動作はある程度決まった型で繰り返されており、
それを脳(特に小脳)は“正しいもの”として記憶しています。
しかし、もしこの動作パターンが間違っていたら、
それも繰り返し続けた結果であれば、小脳はそれを「正解」として学習してしまいます。
「間違った動き」も繰り返せば“正解”にされてしまう
小脳の内部モデルは、「正しいフォームかどうか」よりも、「繰り返されたかどうか」で学習されます。
そのため、一度身についてしまった動作のクセ(たとえば膝が内に入る、腰を反る、片側に体重をかけるなど)は、
たとえ不自然でも「それが自分にとっての普通」として脳に染みついてしまうのです。
その結果どうなるかというと
本人に自覚がないまま、間違ったフォームで運動や日常動作を繰り返し
関節や筋肉の一部に負担が集中し、徐々に痛みや動きづらさにつながっていく
という流れが出来ます。
「クセ」は環境や習慣からも影響を受ける
クセは筋力や柔軟性だけでなく、環境や生活習慣にも影響されます。
たとえば
● いつも同じ肩でバッグを持つ
● ソファで横向きに座ることが多い
● 片脚ばかりに体重をかけて立つ
● 痛みをかばって動き方が変わる
こうしたちょっとした習慣の積み重ねが、小脳にとっては「よくある動作」として記録されてしまい、
誤った内部モデルの強化=クセの定着につながります。
一時的には楽でも、後から代償がくる
誤ったパターンの多くは、最初は「楽」「疲れにくい」「かばってるだけ」と感じるかもしれません。
しかしそれは、使わなくなった筋肉や関節の機能低下と、使いすぎた部位の負担増加を引き起こし、
やがて痛み・こわばり・可動域制限といった形で代償を受けることになります。
では、このクセ=誤った内部モデルをどう修正していけばよいのでしょうか?
次章では、リハビリやトレーニングがどのように正しい動きを再学習させていくかを解説していきます。
リハビリ・トレーニングは「再学習」のチャンス
一度定着してしまった間違った動きやクセは、自分ではなかなか気づけないものです。
しかし希望はあります。
それは、小脳の内部モデルは「書き換えができる」という性質を持っていることです。
つまり、リハビリやトレーニングを通じて、正しい動きを再び学習し直すことができるのです。
小脳は可逆性が高い
小脳には「可塑性」という、学習や経験によって神経回路を変化させる能力があります。
これは筋トレで筋肉が太くなるように、
正しい刺激を与え続ければ、小脳の内部モデルも少しずつ書き換えられていくということを意味します。
動きを変えるために必要なのは「気づき」と「反復」
クセの修正には、次の2つがとても重要です。
1、気づき(=エラー感知)
まず、自分の動きの“ズレ”に気づくこと。
そのためには、
◎ 鏡で姿勢や動作を確認する
◎ トレーナーやセラピストに動作を指摘してもらう
◎ 映像で自分の動きを客観的に見る
などの「フィードバック刺激」が不可欠です。
小脳は“予測と実際のズレ”から学習するため、この“ズレ”に気づくことが書き換えの第一歩です。
2、反復(新しいモデルの上書き)
そして、新しい正しい動きを何度も繰り返すことで、
小脳の中で新しい内部モデルが強化されていきます。
最初はぎこちなくても、反復するうちに徐々に自然な動作として定着し、
「無意識でもできる状態」へと近づいていきます。
リハビリやトレーニングは「体の使い方を学び直す時間」
つまり、リハビリやトレーニングとは単に筋力や柔軟性を高めるだけでなく、
「自分の体をどう使うかを学び直す時間」なのです。
これが運動学習です。
そしてそれは、年齢に関係なく誰でも可能です。
大切なのは、「正しい動きを感覚として体に覚えさせる」こと。
そのためには、動きを意識する・整える・繰り返すというプロセスが欠かせません。
次章では、こうした動きの再学習がどのように痛みの改善につながるのかを、より具体的に解説していきます。
クセが無くなると痛みが変わるメカニズム
「動きのクセが取れてきたら、なんだか痛みも減ってきた。」
これは、リハビリやトレーニングが進むとよく聞かれる言葉です。
なぜ“動き”が変わると“痛み”も変わるのでしょうか?
それには、いくつかの重要なメカニズムが関係しています。
1、負担のかたよりが解消される
クセがある動作は、体の特定の部分だけを過剰に使い、他の部分はサボる傾向があります。
例えば
◎ いつも膝が内に入るクセ → 膝関節の内側に集中する負担
◎ 腰を反らせすぎる姿勢 → 腰椎や腰背部の筋肉に慢性的なストレス
これらの「かたよった使い方」をやめて、体全体でバランスよく動けるようになると、
1つの部位にかかっていた負担が分散され、痛みの原因が減っていきます。
2,動いていなかった部位が使えるようになる
間違ったクセによって使われなくなっていた筋肉や関節は、
血流が悪くなったり、硬くこわばったりして機能が落ちています。
動きを修正していく中で、今までサボっていた部分が動き始めると、
◎ 筋肉の活動が回復する
◎ 関節が滑らかに動くようになる
◎ 周囲の組織に栄養や酸素が届きやすくなる
といった回復のループが始まります。
HK LABOのアプローチ
HK LABOでは、痛みやクセの改善を単なる“対症療法”で終わらせず、
動作そのものを見直し、内部モデルを再構築することを目的としたアプローチを行っています。
「動き方が変わる」ことで、「痛みの出にくい身体」に変わる
それを可能にするのが、動作評価 → 修正 → 再学習という流れです。
まずは“クセ”を見つける評価から
最初に行うのは、痛みのある部位だけでなく、
「なぜそこに負担が集中しているのか」を探るための動作評価です。
◎ 姿勢の癖(骨盤の傾き、背骨の湾曲)
◎ 歩行やスクワットなどの基本動作
◎ 筋力・柔軟性・関節の可動域
◎ どのタイミングで「ズレ」や「代償動作」が出るか
こうした情報から、脳が「正しいと思い込んでいる動き」と、「実際に必要な動き」とのギャップを洗い出します。
感覚入力で「ズレ」に気づいてもらう
クセは無意識のうちに出てくるため、まずは自分自身で“ズレていた”ことに気づくことが必要です。
そのために、以下のような方法でフィードバックを与えます
◆ 鏡や動画で自分の動きを視覚化する
◆ 徒手誘導によって正しい動きを身体で感じてもらう
◆ 弾性バンドやツールを使って感覚の“ズレ”を強調する
◆ 小さな成功体験を積みながら「できる」感覚を脳に覚えさせる
正しい動きを“無意識レベル”に落とし込むトレーニング
動きの修正は、最初はぎこちなく感じるものです。
しかし、何度も繰り返していくうちに小脳の内部モデルが更新され、
やがて「無意識でも正しい動きができる」状態に近づいていきます。
HK LABOでは、次のようなステップでトレーニングを構成します
★ まずはコントロールしやすい環境で動作練習(座った状態やスローテンポなど)
★ 徐々に難易度やスピード、負荷を上げていく(立位、荷重、動的動作など)
★ 日常動作や競技動作に応用していく
その中で、本人の目的(痛み改善、歩き方の修正、スポーツ復帰など)に応じた個別のプログラムを組み立てています。
整えてから鍛えるという順序も大切に
関節が固い、筋膜が滑っていない、筋の反応が遅れている。
このような状態でいきなりトレーニングをしても、正しい動きを学習するのは難しいものです。
HK LABOでは、必要に応じて以下のような「整えるアプローチ」も並行して行います。
◎ 筋膜リリースやストレッチによる可動域の確保
◎ 呼吸や足裏・骨盤・胸郭などからの感覚入力
◎ 等尺性収縮(アイソメトリック)で安全な筋出力の再獲得
自分自身の経験
私は2歳から大学卒業まで水泳をやっていました。
その中で何度か大きくタイムを伸ばすタイミングはあったのですが、その一つが中学生の時です。
もちろん身長も伸びるのでタイムが伸びやすい時期という事もありますが、
コーチの指導で平泳ぎのフォームで肘を立てるという事を意識して練習をしていた時期があります。
いわゆるハイエルボーという水泳ではとても大切な技術の一つです。
(それによって掌が後ろに向くため溝を押して推進力が得られやすくなります。)
ただ自分ではなかなか難しくうまく習得できませんでした。
それが反復して練習した時にコツというか感覚をつかむタイミングがあり、一気にタイムが早くなったのを覚えています。
コツをつかんでからは意識しなくてもハイエルボーが出来るようになり、コーチにも怒られなくなりました。
今思うとあれは小脳が内部モデルを作ったタイミングだったんだと思います。
内部モデルが出来るタイミングは人それぞれ違います。
寝ている時にも脳は一日の出来事を整理するので、その時に内部モデルが出来る人もいると言われています。
なので、正直すぐ内部モデルが出来る人もいれば、時間がかかる人もいます。
しかし、共通しているのは反復するしかありません。
痛みのある人もパフォーマンスアップが目標の人もどちらにしても魔法のようなことはなく、
コツコツと地道に反復するこれに尽きるという事ですね。
最後に
痛みの根本的な原因を探っていくと、多くの場合に共通して見えてくるのが「体の使い方=動作のクセ」です。
そしてそのクセは、小脳にある内部モデルという動きの記憶装置がつくり出しているものです。
一度身についてしまったクセは、なかなか自分では気づけません。
しかし、適切な評価とトレーニングを通して、
◎ 自分の動きに気づき
◎ 正しい動きを体で覚え直し
◎ 無意識の動きに落とし込む
というプロセスを積み重ねていけば、脳はその都度、動きの正解を更新してくれます。
これは、ただ痛みを軽くするための方法ではありません。
「動ける体を取り戻すこと」「一生自分の足で動ける体を育てること」にもつながっていく、根本的なケアの考え方です。
「年齢のせい」「クセは直らない」
そう思っていた方にこそ、ぜひ知ってほしい。
クセは、小脳が覚えた動き。
だから、動きを学び直せば、体はちゃんと変わっていきます。
HK LABOでは、「痛みが取れる」ことだけでなく、
“痛みを繰り返さない体” “自分で動ける体”を一緒につくっていくことを大切にしています。
もし、
● いろんな治療を試してきたけど変わらない
● 動きにクセがあると感じている
● 将来の体の不安を減らしたい
そんな想いがあれば、ぜひ一度ご相談ください。
「動き」から変わる体づくりを、私たちがしっかりサポートします。
今回もかなり長文になりましたが、最後までお読み頂きありがとうございます。
服部 耕平